パリの新コンサートホール

フィルハーモニー・ド・パリは、ベルリンのフィルハーモニー・ホールに
負けじとフランスがパリ管弦楽団の本拠地として建設し、予定から大幅に遅れて今年1月に
やっとオープンしたばかりの最新のコンサートホールだ。
パリ滞在中に一度は行ってみたいと思っていたところ、パリ菅ではないが、ルツェルン祝祭管弦楽団をバックにアルゲリッチがピアノを弾くという演奏会が帰国前日に
あると知ってさっそくネットで予約した。
ネット予約の場合、チケットは自分でプリントするのが普通だが、ここは郵送か窓口での引き換えしかない。
新築の建物を見学したいし、場所の事前リサーチもできるし、と会場まで引き取りに行くことにした。
会場のあるポルト・ド・パンタン駅はパリ北東部のはずれに位置し、地下鉄5号線の南の始発駅から北の終着駅近くまでパリを縦断し会場へ向かった。


巨大な建物である。
ベルリンもすごかったが、パリも建物の高さでは負けていない。修理している赤いクレーンと比較してね。

この一日限りのイベントは「クラウディオ・アバドへのオマージュ」というチャリティコンサートでパリのキュリー研究所主催。
アバドは去年80歳で胃ガンのため亡くなったが、ガンが発見されてから
手術を受け10年以上も音楽活動を続けながらガンと戦ってきた。
とらはアバド追悼といえば同郷の盟友ポリーニでしょう(ふたりはイタリア出身)、なぜアルゲリッチが出しゃばってくるの?と思ったが、アルゲリッチアバドとは共演もレコーディングもしていた。
パンフレットにあった昔の写真。

ふたりとも若い。美男美女である。なにかあっても不思議じゃない。
おそらくこれは今回の演奏曲プロコフィエフの協奏曲第3番を1967年に収録した時の写真と思われる。
アバド33歳、アルゲリッチ26歳
それから50年近く、クラッシク音楽界のトップを走り続けてきたふたり、
アルゲリッチにも充分アバドを追悼する資格があると思った。
(でも、ポリーニだったらもっと良かったのに...)
ライトアップされたコンサートホール

エスカレータを5階分ぐらい一気に上って、ホールの入り口に着く。
ホールは客席がステージを囲むようヴィンヤード形式。
座席数は2400、舞台と観客席が近く一体感が高まる作りになっている。
ベルリンフィルがこのヴィンヤード形式の嚆矢でサントリーホールもこの形式。
しかしこのパリのホールはどこか違う。
舞台正面から

左側

右側

対称感覚を大切にする几帳面な日本人としては信じられないことに、
観客席は左右対称ではない。
左に突き出ているバルコニーが右側にはない。

最初の演奏曲プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番。オーケストラは
アバドが集めたルツェルン祝祭管弦楽団、指揮はアンドリス・ネルソンス
チケット代は一等席140ユーロに、チャリティとしてキュリー研究所への寄付が60ユーロ、合計200ユーロ。パリの音楽会の標準からすると高い。

そういえばアルゲリッチともワルシャワで同じ空気を吸ってたな……

ピアノは力強く素晴らしい演奏だった。

オーケストラと調和していて、協奏曲の醍醐味を味わった。いろいろ言動には問題のある人だが、演奏はさすがだ。万雷の拍手とブラボーの声に答えてのアンコール、20世紀の音楽に暗いとらには曲名は不明。

ここで休憩。

ホワイエは天井が低く狭苦しい。ぐるりと回ってみたが、シャルル・ド・ゴール空港の通り道みたい。バーも一階につき2か所しかない。休憩時間にゆっくりと過ごすというフランス人はこれでいいのか。

ガン撲滅のこの日のために造られたオマージュが飾られていた。

後半はピアノなし、オーケストラのみでマーラー交響曲第5番。

ネルソンズは協奏曲の時はおとなしかったが、マーラーでは爆発。
飛び上がったり、派手な指揮ぶりである。初代常任指揮者、静かなアバドと比べると違和感を感じるが、マーラーだとこれくらいでいいのか。 
あまり好みの選曲ではないが、その迫力は音響のすばらしいコンサートホールで十二分に生かされていた。


終了は11時過ぎ、拍手もそこそこに予約していた会場
真向かいのステーキレストランに向かう。
夜の11時15分、レストランはガラアキ。

しかしこの後続々とコンサート帰りの人々が入店。
12時までの営業らしいが、全部処理しきれるとは到底思えないが……
地下鉄の最終は12時40分とのことだが、なるべく早く終えたいので、
名物ティーボーンステーキ500gの一品勝負。

ポテトとグリーンサラダも自動的に付いてくる。

ソムリエに推薦してもらった赤ワインも頼む。これで合計71ユーロ。
フランスのレストランとしては信じられないほど早く出てくる。12時前に食事を終了。

地下鉄もがらんどう。

駅の名前の横に音符が

北駅で乗換、アパートに着いたのは12時45分。

数日前に聞いたサル・ガヴォーでのコンサートとは新旧の対比がおもしろかった。
ガヴォーは座席数1000、フィルハーモニーは2400。
ピアニストは、今年2015年のショパンコンクール優勝者対1965年の優勝者。
アルゲリッチ優勝からチョ・ソンジン優勝まではちょうど50年。
50年後チョがどのようなピアニストになるか見届けることはできないが、ポリーニのようにストイックな人生を送るか、アルゲリッチのように自由奔放に生きるのか、どちらにしろ、気力と体力が続くことを祈りたい。

ところで、昨日パリで事件があった。いのとら日記はあたかも我々がまだパリにいるかのように書いているが、実はすでに帰国済。
国境封鎖の60時間前にパリを離陸、間一髪といえるかも。犠牲者の方々に冥福を祈る一方、我々は無事ですのでご安心ください。(とら)