エクサン・プロヴァンス音楽祭―フィガロの結婚

ヨーロッパのオペラ座は夏はお休み、そのかわり各地で音楽祭が開かれる。
イタリアのヴェローナ、ドイツのバイロイトオーストリアザルツブルグなどが
有名だが、フランスではここエクサン・プロヴァンスの音楽祭が人気である。早くから
予約したので、初日のチケットがとれた。開始は9時半から、終了は夜半を過ぎる
ので、車で行くことにして昼間リサーチしていた駐車場に入った。(タクシーは台数も
少ないしだめだろう思ったが、ホテルの人にも無理と言われた。)会場は旧大司教館の中庭、野外、寒さに備えてのストールと長時間の固い席対策にクッションを持参
したので、オペラ観劇というよりピクニックに行くようないでたちとなった。

大司教館の前で開演を待つひとたち

中庭に設営された会場は折り畳みだが椅子席で、これならクッションはいらなかった
かなと思う。
また、初日のせいだろうか、パリに比べてドレスアップした人たちも多い。前のほうの
座席に着物の女性が入って来た。フラッシュがたかれたので、「えっ 着物と言うだけで取材が!」と思ったら、その方はバルテュス未亡人節子・クロソウスキー氏だった。そのあたりは招待客席だったようでセレブな雰囲気の方々が。
とらも着物を持って来ていたが、この日は時間がなくて着てこなかったので残念。










幕間で談笑するひとびと

日が落ちても、まだ空に明るさが残る中、モーツアルトの軽快な序曲が始まった。
しかしオペラ座で聞くよりオーケストラの響きが良くない。野外劇場なので音が抜けてしまうからか。幕が上ると、衣装は現代風、この前の「ドン・ジョヴァンニ」もそうだったが、モーツアルトのオペラを現代風に演出することが流行っているのだろうか?
舞台脇のスクリーンに映し出される台詞が、素晴らしいことにフランス語と並んで英語もある。やればできるじゃないかフランス人、どうしてオペラ座でも導入してくれないのかと思う。おかげでいつも苦労している内容がけっこう分かった。
とらの劇評:主人公フィガロの結婚に際し、初夜権を行使しようとする伯爵を笑いものにする、という喜劇を現代風に表現するのは無理があると思う。
伯爵が会社社長、フィガロが社長秘書といった見立てだが、いくらワンマン社長とは
言え、現代社会で初夜権という設定はできない。そこで自分の秘書との結婚が迫っている女子社員をくどく好色な社長という筋立てなのだが、これではフランス革命にも
影響を与えたといわれているボーマルシェの原作も悲しかろう。しかしこの点を気にしなければ、モーツアルトの音楽はすばらしく、3幕目、フィガロが今まで結婚を迫られていたマルチェリーナの子供と判明し、父のバルトロと親子3人で抱き合って喜ぶご都合主義の場面は「えーっ、それはありなの」といつも突っ込んでいる歌舞伎の奇想天外な筋立てとも似ていておもしろかった。(玉三郎の「えーっ、それではお前はわたしのあにさん」というセリフを思い出した。)

終わったのは深夜12時過ぎ、さすがにもう街は寝静まっており、オペラ帰りの客たち
しかいなかった。(とら)