「愛の妙薬」初日

ショパンコンクールの次に今回の旅行で楽しみにしていたのはバスティーユオペラ座での、ロベルト・アラーニャ主演の「愛の妙薬」。日本で初日を予約しておいた。
アラーニャは今一番充実しているフランスのテノール。前回のパリ滞在の頃はパリ
公演がなかったので、全く知らなかった歌手だったが、帰国してからメトロポリタン
オペラの映画版、ライブビューイングで「アイーダ」「トスカ」などを次々と観て、
その太陽のようと称せられる明るい歌声と軽い身の動き、演技力に惹かれ、今年の
2月ニューヨークのメトロポリタン歌劇場まで「カルメン」を見に行った。

地下鉄から階段を登るとバスティーユ広場。

その真ん中にそびえる革命記念柱。


広場に面する、3年ぶりのパリオペラ座。

席は3階のプレミア・バルコン、前から2列目の好位置。
どんどん人が入ってくる、満席だ。

オペラはストーリーが分からないと辛い。歌詞のディーテルがあればなおいい。
メットオペラを録画したディスクを日本から持参していた。パリでゆっくり見て予習と思っていたところ、アパートのはDVDでブルーレイの再生はできなかった。
ネットで日本語対訳を探したが44ページにもなり、とても印刷できない。自力で
シノップスを作って持って行ったが、案ずるより産むはやすし、なんと前回には
なかった英語の字幕ができていた。

今回の緞帳?は、インチキ薬売りドゥルカマーラの商品宣伝のチラシをアレンジした奇抜なもの。その前面にぶら下がって見えるのが以前にはなかった字幕パネルで、フランス語と英語が同時表記される。

ドニゼッティ作曲のこのオペラは19世紀のバスク地方の村を舞台にした楽しい
喜劇。今回の舞台の衣装、装置は現代風。
美しい農場主の娘アディーナに恋する純情な村の農夫ネモリーノ(=アラーニャ)。

一幕一場でアディーナは「トリスタンとイゾルデ」を朗読し、物語のような「愛の妙薬」があったらなと歌う。そこに現れたベルコーレ軍曹がアディーナに求愛、アディーナは相手にしない。これに刺激されたネモリーノもアディーナに求愛するが、軽くあしらわれる。
二場でインチキ薬売りのドゥルカマーラが登場、弁舌巧みに村人にインチキ薬を売りまくる。ネモリーノが物語にあるような「愛の妙薬」が欲しいと頼むと、安いボルドー
ワインを売りつける。ワインを飲んで陽気になったネモリーノの横柄な態度に気を悪くしたアディーナはあてつけにベルコーレのプロポーズを受け入れてしまう。

第二幕は結婚式の当日。追加の「愛の妙薬」をドゥルカマーラから手に入れたネモリーノは酔っ払い始めるが、なぜか急に村の娘たちにモテモテに。実はネモリーノの伯父が死んで遺産が転がり込み急に金持ちになったからなのだが、まだネモリーノ本人もアディーナもこのニュースを知らない。アディーナはネモリーノの本心を知り、ネモリーノもまたアディーナの愛を確かめる。「愛の妙薬」は恋愛に効くだけでなく、
金持ちになるという効能もあると、インチキ宣伝するドゥルカマーラ。村人は争って
安いボルドーワインを買い求め、ドゥルカマーラは歓声に送られて村を去っていく。

ドニゼッティの代表作は悲劇「ランメルモールのルチア」や、歴史もの「アンナ・
ボレーナ」「マリア・ストゥアルダ」など荘重なものもあるが、この「愛の妙薬」や
連隊の娘」など軽い喜劇の方が楽しめる。



とらは着物、幕間のホワイエ、初日のためかいつもより人々の服装がはなやか。

カーテンコールは万雷の拍手。アラーニャの出来栄えは素晴らしく、もう50過ぎの
はずだが、若々しく純情青年を演じていた。
ヒロイン、アディーナを演じたのは、だいぶ歳の差のある現在の妻、アレクサンドラ・
クルザク。初めて聞いたが澄んだ声が美しいソプラノ。
第一場では緊張からかオーケストラに負けていたが、夫のサポートにより?第二場
からは落ち着き声量を取り戻しての熱演だった。

 
終了は10時半、オペラとしては短いほうだ。
この日の夕食は自宅でハムとチーズ、野菜にパン、スープと決めていたので、
まっすぐ帰宅した。(とら)