ジャンヌ・ダルク ひばり

地下鉄に張ってあるポスターにはいつも注目している。ここでリサイタル、ミュージカルなどの情報を知ることができる。
このポスターを初めて見た時、この少女はジャンヌ・ダルク、ということはこれはアヌイの「ひばり」に違いないと思った。

良く見ると ANOUILH の文字が、これでアヌイと読むのかと驚いた。アヌイ、ジロドーは劇団四季のレパートリーで若いころはよく日生劇場に行ったものだった。学生演劇を
やっていたころ、当時は前衛全盛で、こんなきたならしい芝居より、美しく華やかな
「オンディーヌ」とか「泥棒たちの舞踏会」とかの役をやりたいものだとくちばしり、まわりから意識の低いヤツとバカにされていた。

本場で「ひばり」、今年はジャンヌ生誕600年、是非行ってみたいと思ったが、果たしてフランス語の芝居が楽しめるものだろうかとの疑念が。その後ポスターを見かけるたびに気にしていたのだが、劇場名はあってもスケジュールや値段が書かれていないので具体的な検討に入れなかった。長いこと貼ってあったポスターがそろそろ見かけなくなってきたころ、モンパルナス墓地に行った帰り、ついに近くにあるモンパルナス劇場に寄ってみた。7月いっぱい上演していることがわかり、夜は8時半からだが、マチネーは5時半からとスケジュールもわかり、土曜日のマチネーを一人分予約した。
オペラだと一緒に行ってくれる「いの」もさすがにフランス語だけの芝居は付き合って
くれなかった。

当日、バスで行こうとダーンフェルロシュロー広場にでると、サンジェルマン方面に向かう道路が3本閉鎖されている。ナニゴトと聞いてみると、ホモのデモが予定されているので道路規制があるという。その日は暑く、歩けば30分ぐらいなのだが、とても歩く
気分にはなれない。タクシーを奮発したが、タクシーも全く動かない。開始時間に間に合うかイライラしていたが、5分前に劇場に駆け込むことが出来た。
この交通渋滞で観客も遅れているらしく、開始時間を15分過ぎても始まらない。前の方に空きがめだつ。その時、劇場係が観客の席の移動を誘導し始めた。劇場は収容人数300人ぐらいの小さなものだが、後ろの席の人を順番に前の方の空いている席に案内して、少しでも良い席で見てもらおうとのことのようだ。日本だと図々しい人が前の空き席に素早く移るケースが多いが、組織的で公平なシステムだと感心した。

芝居はなんと理解できた。
前に何回か見たことがあったこと、日本語訳の脚本を読んでいったこと、役者がみんな上手だったことでフランス語がわからなくても雰囲気、あらすじは分かった。舞台装置はシンプル、イギリス側でジャンヌを火刑にしようとするウォーリック伯が客席から登場する。フランス側のコーションはジャンヌに罪を認めさせ、なんとか火刑から救いたいと思っている。裁判はジャンヌの一生を再現することによって進行する。
少女時代のジャンヌ、「フランスを救え」という神の声を聞いて守備隊長に会いに行く
ジャンヌ、シャルル7世に面会するジャンヌと舞台は進む。
このジャンヌ役が大変良かった。少女の無邪気さ、心細さが良く表現されており、運命に果敢に立ち向かっていく気迫のジャンヌという今までの日本でのイメージと違った
ジャンヌだった。大人たちに押し切られて自分の罪を認めてしまうジャンヌの弱さ、裁判は終わり、火刑で罰せられることはなくなった。しかしそのあとウォーリック伯相手に、無邪気に「信じられる?普通に暮らすジャンヌ、結婚するかもしれない」とのセリフで
判決を覆す時、きっぱりという感じでなく、無理よねというニュアンスであった。
日本人がやるとどうしても絶叫型になってしまうところ、悲壮感や気負ったところがない自然体のジャンヌでした。(とら)