ウィーンの森

シュトラウスのウィンナーワルツで良く知られている曲といえば「美しき青きドナウ」と「ウィーンの森の物語」であろう。
ウィーンの森に行きたいと思ったが、今回はレンタカーをする予定もないし、したとしても見るべきポイントも分からない。そこでツーリストインフォメーションで探したところ、
「ウィーンの森半日観光」というのがあった。4時間で57ユーロ、日本人ガイド付きだ。
パリに来て以来ツアーに申し込むのは初めてだが、パリのマイバスツアーは妹がパリに来た時に利用しており、なかなかよかったという感想だったので、団体行動はあまり好きではないが大学時代以来何十年ぶりかで参加することにした。
集合場所のオペラ座前に行く。ところが同乗者は日本から一人で来た男性だけ。
バスで行くのかと思っていたが、客は3人だけなので大型の車にガイドと運転手の5人で出発。

市街を出ると、すぐ森に入る。森はウィーンを三方から取り囲んでおり、東京23区が
すっぽりと入る広大な落葉樹林だ。アルプス山脈の東の果て、その先はハンガリー
大平原が広がる。
山の標高は高くても900m程度しかないが起伏に富み、美しい風景が続く。

まずシューベルトが住み、「菩提樹」を作曲した家へ行く。

"泉に沿いて茂る菩提樹" で始まる歌曲「リンデンバウム Lindenbaum 菩提樹」は
ここで創られた。ドイツ語でブルンネン Burunnen は確かに泉だが井戸の意味もある。こんこんと湧き出る泉の傍にある菩提樹かと思っていたが、現実は汲み揚げ井戸とはガッカリだ。

菩提樹



次はホイリゲン・クロイツ(聖なる十字架)修道院へ。
ハプスブルグ家以前にオーストリアを統治していた、バーベンベルグ家によって1133年創立されたオーストリア最古のシトー派の修道院

この修道院でガイドは実力を発揮した。鍵を借りてきて、我々だけだったらとても入れ
ない、入れるとも思えない扉を開け入っていく。
回廊に古いステンドグラスがある。まだ、彩色技術が発達していなかったので、
モノトーンに近いが、これが落ち着いた風合いでとても美しい。

 
回廊が続く。





歴代の修道院長が眠る堂には骸骨の燭台。魂は昇天するので骸骨は怖いものでは
ないらしい。

礼拝での修道士の序列は厳格で席次がきっちり決まっている。
背板の木彫りレリーフにはキリストの生涯が描かれている。

オーストリア国旗の由来を語る壁画。
12世紀末第3回十字軍に参加したオーストリア公レオポルト5世が凱旋して帯を
とったら、返り血で赤く染まった軍服の帯の部分の白地が残っていた、ということ
から赤・白・赤のデザインになった。

修道院の前のカフェでケーキとお茶で一服したあと、映画「うたかたの恋」で有名な
マイヤーリングへ向かう。
皇后エリザベート(シシィ)の息子 ルドルフ皇太子は父である皇帝フランツ・ヨーゼフ
一世と性格も思想も一致せず、妻子がいるにも拘わらず1889年独身の男爵令嬢
マリー・ヴェッゼラとこの館で心中した。

ルドルフの自筆の遺書





ハプスブルグ家が君臨している間、この事件は極秘とされ、のちに尼僧の修道院
改装された。
修道院には短剣で心臓を刺されたマリア像がある。
息子の死後およそ10年経った1898年エリザベートレマン湖畔で暗殺されたが、
その心臓を突き刺した短剣はこのマリア像と同じ角度で入っていた、という因縁話と
なっている。

帰途にベートーベンが交響曲6番から9番まで構想・作曲したという森の小道を
見ながら走り、更にブドウ畑を通り抜けワインの試飲もせずに帰途についた。
時間の関係か、どちらにも停まってくれなかったのが心残りだっだ。(とら)