ウィーン楽友協会:ポリーニとアバドの共演

ウィーン最後の晩はこの旅行の目玉、ポリーニのピアノである。
現代クラッシック音楽の最高峰と言えるポリーニアバドの競演でモーツアルト・ピアノ協奏曲第17番を楽友協会の「黄金のホール」で聞く....夢のような話だ。
ウィーン楽友協会正面。1812年に設立された協会は今年で200周年を迎える。
    
とらはぼかしの着物に紫の光る帯。
ポリーニに花束をあげたいと騒いでいたが、持っていかなくてよかった。
そんな雰囲気はどこにもなく、予約した席も最後列の桟敷の、そのまた最後列だった。

一番うしろの桟敷席の後列が売り出された初日に買ったチケット。平土間の1等席は楽友協会のメンバーへの予約で売り切れ、一般客はなかなか楽友協会の切符自体がとれないらしい。立ち見席でなくてよかったというべきかもしれない。

元旦のウィーンフィルニューイヤーコンサートのテレビ中継でもおなじみの大ホール、黄金のホールとよばれる。

演奏が始まる。席は視界が極めて悪く、ポリーニの弾いてる姿はほとんど見えない。
しかし演奏は溜息がでるほど素晴らしい。

ポリーニショパンコンクールに優勝したのは1960年。当時ピアノを習っていた私に
とって、まだ18歳で審査員に「我々の誰よりも完璧な演奏だ」と激賞された美青年は仰ぎ見る存在だった。アバドポリーニより年長だが指揮者デビューは同じ頃、ミラノ出身のふたりは盟友と言われている。半世紀を超える年月、クラッシック界のトップと
して音楽シーンをリードしてきたふたりの友情はどのようなものなのだろう。ポリーニの演奏スタイルは下手なピアニスト独特の大げさな身振りがまったくなく、淡々としたものだ。アバドの指揮も飛び上がったりするものではなく端正なスタイルである。おおげさなジェスチャーが民族笑い話の種になっているイタリア人としては異例な静かな二人である。「マウリッツィオ!」「クラウディオ」とか叫び合ったり抱き合ったりしないのだろうか。

ポリーニモーツアルトを生で聞くのは初めてであったが、その繊細な旋律がピアニッシモをもしっかり美しく響かせるポリーニのピアノで奏でられるとモーツアルトの素晴らしさを改めて認識させられる。終わると万雷の拍手。オペラ座でも感じたことだが、この大ホールでも拍手が素晴らしい。拍手は鳴り止まず、ポリーニは5回ぐらい呼び戻されていたが、アンコールを要求するような下品な拍手ではなく、ただただ賞賛の拍手が
続いていた。

幕間、後ろの桟敷席の唯一良い点はすぐ席から出られること、トイレでもドリンクでも
待たずに一番だ。シャンパン片手にホールを歩き回る。ゆかりの音楽家の像がある。
モーツアルト   リスト       円天井が豪華

休憩が終わって席にもどると、舞台のピアノが片づけられている。
「え! ポリーニはもうでないの!」
モーツアルトにのみ気を取られていて、もうひとつの曲目ブルックナー交響曲第1番に注目していなかったが、よく考えばこれにピアノ演奏がないのは当然。
アバドが指揮するのは彼が集めたメンバーからなるルツェルン祝祭管弦楽団、やはり音響の良さに感激する。

ウィーンに来て本当に良かったと思った。
逆になぜ今までウィーンに来なかったのだろうとも思った。(とら)