ペールラシューズ墓地 その三

ペールラシューズ墓地は観光名所だ。
日本人ツアーには出会わなかったが、東欧系と思われるバスツアーに遭遇した。
しっかりガイド付きだ。ショパンをはじめ、パリで客死した東欧系の芸術家も多い。
ポーランドチェコスロヴァキア戦線で亡くなった人たちの記念碑もある。バスでこそ
来ないが他にもガイド付きツアーは何組か見た。
カップルやグループで独自に墓探しをしている人々はたいてい地図を持っている。
お目当ての有名人は大体共通なので、うろうろしていると、「だれのお墓を探しているんですか」的な声を掛け合って、情報を交換しあっている。
日本でも青山墓地とか谷中霊園など有名人が眠っている
墓地はあるが、日本に永眠している外国人は少ないので、
インターナショナルな墓見物はないだろう。パリは死んでも
外国人にやさしい包容力を感じさせられる町である。

趣向を凝らした墓はいろいろあるが、絵筆とパレットを持っているので画家とすぐ分かる墓はジェリコー
画業なかばの32歳で夭折した彼の最後の言葉は「まだ、何もしていない」だった。
Gericault Theodore 1791-1824

ルーヴルにある代表作「メデューズ号の筏(いかだ)」が石版画となっている。


後輩としてこの作品の筏の帆の真下でうつぶせになっている男のモデルを務めたのがドラクロア
ジェリコーの早すぎる死に嘆き悲しんだドラクロワはこの絵画に影響されて代表作の
一つである「キオス島の虐殺」を完成させた。
Delacroix Eugene 1798-1863


フランスを最も代表する絵画は、と問われたら多分これだろうというほど知られている「民衆を導く自由の女神」の画家。


モリジアニは35歳で早世し伝説となった画家。 
Modigliani Amedeo 1884-1920
 

彼の死の2日後に妊娠していたにもかかわらず
自殺した妻ジャンヌと同じ墓に眠る。



夢見るような少女像で一世を風靡したマリー・ローランサン
「死んだ女より もっと哀れなのは忘れられた女です。」という詩を残した彼女は生前の華やかさからは離れた地味目な墓に眠っている。捧げられた花束もなく、墓見の人々の姿もなく、忘れられてしまったのだろうか。
Laurencin Marie 1885-1956

マックス・エルンストは、波乱万丈の生涯を送ったドイツ生まれのシュールリアリズムの画家、
詩人ポール・エリュアールの親友であり、ダリ夫人となった彼の妻ガラの恋人であり、第二次世界大戦中、敵性外国人としてアメリカ亡命中はペギー・グッゲンハイム
夫でもあった。フランスに帰化して85歳で死去。納骨堂のボックス式収納墓はなんの飾りもなくきわめてシンプル。夭折した画家も多いが、戦後の大家はマチス(85歳)
ピカソ(92歳)ダリ(85歳)シャガール(97歳)と長寿である。
Ernest Max 1891-1976

右端上から2番目 お墓番号2102

中庭に面した回廊にある。




貴族・金持ちの墓も当然たくさんある。その中から対照的な墓をふたつ。
Demidoff Elisabeth Strogonoff 1779-1818

そびえ立つロシアの大貴族ストロガノフ家の墓。
家伝の料理「ビーフ・ストロガノフ」にもその名を残しているが、一家の絵画コレクションは国立ロシア美術館別館のストロガノフ宮殿に収蔵されている。
この墓はストロガノフ家から同じロシアの大貴族デミドフ家に嫁いだエリザヴェータ・ストロガノヴァのもの。パリで過ごした
という夫妻の次男が建立したのか。

一方「えっ これが!」と思うほど地味で周囲に溶け込んでいるのが天下の大富豪、
フランス・ロスチャイルド家墓所。墓の扉の奥を覗き込みロスチャイルドの銘板を
読んでやっと確認できたほど普通に目立ったずその存在を隠している。
祀られているのは創始者の5男である、ジェイムス・ロッチルト男爵(ロスチャイルドの仏語音)。
ジェイムスが死去した時の遺産は6億フラン以上あったという。ちなみに当時の6億
フランというのは、フランス国内の他の全ての金融業者の総資産推定額である1億
5千万フランの4倍にあたる。
Rothschild James baron de 1792-1868

















中国人もそうだが、ユダヤ人も世界各地に子孫を散らし血脈の危険分散を図っている。
18世紀後半ドイツ系ユダヤの両替商で財を成した創始者には5人の息子がおり、彼らはフランクフルト、ロンドン、ウィーン、ナポリ、パリに支店を開き、19世紀にロンドン、
パリの末裔が大成功を収め、21世紀現在スイス、フランス、イギリスの投資銀行
上場され、今なお隠然たる金融帝国を誇っている。
昨年のロスチャイルド家3か国の上場資産は140億スイスフラン、89億ユーロ、22億ポンドという巨額なもので、合計すると幾らになるか、馬鹿馬鹿しくて計算する気にも
ならない。
無邪気に富を誇るロシア貴族と、反対にむしろ隠そうとするユダヤの大富豪の差が
墓に現れているのか。(とら)