ケルン駅の出来事

デュッセルドルフ→パリの直通列車は一日朝晩の2本しかなく、ケルン発パリ行列車の方が本数も多く便利である。どうせケルンに行くのだから有名な大聖堂に寄ろうと、ホテルをチェックアウトし荷物を持って、電車に乗った。適当に飛び乗った電車は各駅停車だったが、時間に余裕を持って出たので、デュッセルドルフ近郊の駅を通過した
のは2時20分ころ、パリ行は4時42分発なので、ケルンで1時間半は過ごせると見込んでいた。


車窓からは秋の風景が美しい。



さあ、ケルンの駅に着いてさっそくコインロッカーを探す。見慣れた小さなボックスが
並んでいる場所はないが、それより一回り大きく、我々の荷物が全部入りそうな
ロッカーを見つける。

スーツケース2つ、パソコンが入っているバッグ、デュッセルの和食屋で買ったお弁当が入ったビニール袋、紙袋の計5個の荷物だ。
「全部入れるのは無理なんじゃないの」いのの発言に、ちょうどシャッターが開いていたロッカーがあったので、じゃあ入れてみようと自分が持っていた二つの荷物を入れる。奥に置くとまだまだ余裕が、「全部入るよ、荷物ちょうだい」と声をかけると、大聖堂
撮影のためのカメラをスーツケースから取り出していたいのはぐつぐつ。すると驚くべきことに自動的にシャッターが閉まりかけた。「え〜っ!」と手を入れて、あわてて閉まりかけるシャッターを停めようとしたら、「危ない、手が切れるぞ」といのの叱声。
シャッターは閉まった。開けようとしても、開かない。お金を入れるのかなと思い、コインを入れようとしても、機械は受け付けない。困っていると、隣のロッカーには次々と人が来て、荷物を出したり入れたりしている。お金と引き換えに発行されるチケットでシャッターは開閉するようだが、一つのロッカーなのに、どうしてある時は空なのに、ある時は荷物が入っているのか? 
立体式駐車場のように荷物を入れる箱がこの機械の中を循環しているのではないかといのが言いだす。とにかく、半分の荷物はロッカーの中、残り半分は手元にという状態では大聖堂観光には行けない。

いのがロッカー管理事務所を探し出し、担当のおねえさんを連れて戻ってきた。
ここで預けたのだなと尋ねられたので、間違いないこのロッカーである、と答える。
心当たりのボックスふたつを開けてみようと番号を入力するおねえさん。しばらく待つ
とシャッターがあいて、中に荷物が、しかし我々のではない。違うと言うと、では次と、
しばらく待ってまたシャッターが開いて、ロッカーが現れる、がまた見たこともない
荷物が続く。
いったいどういうシステムなのか、といのが聞いている。預けられた荷物はボックスごとベルトコンベアに乗せられて地下の収納室に入れられるとのこと、したがってこの場所でなくても番号札さえあれば他のどこからでも荷物は出せるのだと。なるほど合理的で便利なシステムである。しかし我々の荷物はどこに?!
残りの荷物と一緒に茫然とロッカーの前に立っているしかない。

ちょっと待て、とおねえさんは事務所に戻っていく。これがフランスだったら、言葉の
問題で不安だったろうが、いのはドイツ駐在経験10年、そこそこのドイツ語は話せる
ので安心である。おねえさんがたくさんの番号が書いてある紙を持って戻ってくる。
3時以降預けられた全ての荷物の番号だ、15件ある、ひとつひとつ開けてみようと、
捜索を開始する。番号入力、シャッター開く、中を確認、違う、これを繰り返す。
だんだん不安になってくる。大聖堂観光はたぶん無理だろう、それより列車の時間に間に合うのだろうか…… 全て終わっても我々の荷物は発見できない。おねえさんも
困っている。とにかく事務所に来てくれと言われ、残りのの荷物を持って事務所へ
向かう。
事務所には責任者のような男性とおねえさんのふたりだけがいるようだ。

責任者の男性がおねえさんからなにか言われ外に出て行く。待っている間にちょっと
駅周りを撮影してくると、いのは行ってしまう。おねえさんから英語で今日はケルンに
泊まるのかと聞かれ、いや4時42分の列車でパリに行くのであると答える。今夜の
ケルン泊まりを覚悟する。それより荷物が出て来なかったらどうしよう、パソコンも
入っているので、もういのとら日記も続けられないかも、と一人で待っていると不安は
つのる。いのが戻って来ると相前後して、我々の荷物をぶらさげて責任者の男性が
戻ってきた。いったいどこにあったんだ! 「これだ、これだ!」と喜びの声。
でもあって本当に良かった。

おねえさんがあんたたち、もう自動ロッカーでなく荷物はここに預けたら、と薦める。
とらは疲労困憊、とても大聖堂に行く元気は残っていない。もう荷物はどこにも預けたくないと全ての荷物を持ってカフェで待っていることにする。まだ30分ある、といのは
大聖堂撮影に再度向かった。私は海外出張の経験は人さまよりあると思うが、海外
生活でのトラブル経験はいのの方が豊富、これくらいのトラブルはなんでもないのか。ただ、神経が太く体が丈夫なだけなのか、それとも大聖堂がそんなに好きなのか、
などと考えながらぼんやりコーヒーを飲んでいた。(とら)