ウィーンでオペラ2連戦

今回のオペラは前回の「シチリアの晩鐘」と較べてポピュラーな演目、1日目がパリでも見た「トスカ」、2日目が「椿姫」である。

開始時間7時は9月にはまだ明るかったが、今は真っ暗。
オペラ座の階段を上がる人たちも冬支度。

入口のクロークでコートを預けようとすると、チケットのチェックがあり、ここではない、
予約した2階へ行けと言われる。
2階にはクロークが見つからず、桟敷席への扉が並んでいるだけ。ウロウロしたあげく桟敷席の扉を開けると、内側にコート掛けがあった。
桟敷席は幕間にお手洗いやドリンクに行く時さっと出られるし、帰りにクロークに並ぶ
必要がない、など良い点が多い。


とらは大島の着物に花模様の刺繍の帯。

ぜひパリでも取り入れて欲しいと思うパーソナルタイプの字幕システムが
並ぶ2階桟敷席。

座席数2200にしては空間が狭いと感じたが、そのうち立見席が567席を占める、
だからコンパクトなのだろうか。
チケットの値段は公演によって違うが、今回の場合1等席(平土間中央と桟敷の最前列、2階中央など)が185ユーロ。8等席まであり、8等席は10ユーロ、立見はたった4ユーロ。舞台全体が見えるか、近いか遠いかなどにより、値決めされている。例えば桟敷席も舞台正面に近い方が高く、2列目は1列目より、3列目は2列目より安い。
それが組み合わさっているので、ほとんど舞台が見えない舞台横の3列目だと8等席=10ユーロだ。なかなかきめが細かい。日本の新国立はS席21000円、一番安い席でも6300円、オペラだけでなく日本の観劇は割高だ。

1階の立見席は当日券しかないそうだが今日も一杯、トスカも椿姫も上演時間は短いほうだが、2時間あまりの立ちっぱなしは辛そうだが2時間4ユーロは安い。

トスカはパリで見た時より数段良かった。アメリカの若手歌手エミリー・マギーがトスカ、相方のカヴァラドッシ役はヴェネズエラ出身のアキレス・マチャード。敵役のスカルピア男爵だけが良かったパリと較べて、3人の実力が揃っていた。いのもトスカを再評価。名アリアも十分に楽しんだが、「シチリアの晩鐘」の時のような感激にまでは残念ながら至らなかった。

二日目の椿姫。これは人気オペラなので何回か見ているが、ヨーロッパで見るのは
初めて。
席に着くと舞台の幕が上がっている。

ははーん、これは新演出だなと現代風の衣装と装置を感じてうんざりする。オペラは
伝統的なスタイルのほうが好きだ。
しかし、予想に反してこれが良かった。ヨーロッパで見たオペラの中で初めて現代風
演出が生きていた舞台だった。

序曲が演奏される間、舞台には簡素な寝間着姿のヴィオレッタひとり、物悲しい旋律にあわせてのパントマイム的演技は孤独感を出している。
第一幕の華やかなパーティの場面、ヴィオレッタは映画祭の授賞式の時のような
ゴージャスなドレスに着替えて登場、アルフレードの乾杯の歌となる。アルフレード役はイタリアのフランチェスコデムーロ、甘い声のテノールで日本でも人気がある。
そして、一幕目のハイライト、ヴィオレッタの独唱。「E strano! (不思議だわ)」突然の
アルフレードからの愛の告白に心ときめく自分をいぶかる。そして、彼こそ待ち望んで
きた真実の恋の相手ではないかと考える(「ああ、そは彼の人か」)。
しかし、現実に返って、「そんな馬鹿な。自分には今の享楽的生活があっている。人生を楽しむのよ」と自分に言い聞かせる。(「花から花へ」)ヴィオレッタはアルバニア出身のエルモネラ・ヤオ。高く細いソプラノと華奢な姿は椿姫のイメージにぴったり。
第二幕、田舎でのふたりの愛の生活、アルフレードの父が現れ息子との別れを頼むと話は進み、ここで幕間休憩。

豪華なシャンデリア

とらはぼかしの着物に花模様刺繍の帯。
アメリカ人と思われるおばさんが
声をかけてきてほめてくれた。


階段の吹き抜け

いたるところに絵画が


オペラ座にも
モーツアルト



3幕目はパリ、パーティの場面。
幕は既に上がっており、出演者と裏方が打ち合わせをしているオープンセットのような形から始まる。

そして最終幕、ヴィオレッタの死の場面。ヴィオレッタが体格のいいプリマだとここで
しらけるが、エルモネラ・ヤオは適役、可哀相で涙が出てくる。

オペラと原作は主人公の名前とか違っている点もあるが、悲劇の原因は共通、アルフレード(原作はアルマン)が娼婦と暮らしていると彼の妹の縁談が壊れてしまう、別れてくれと父親に頼まれてヴィオレッタ(原作はマルグリット)が承諾したことにある。
時代的・宗教的な背景が違っていることもあるが、どんなに穢れなき妹とはいえ同じ
女性、この差別はちょっとひどいよねと思うせいか父親の言葉の説得力が感じらず、
最後の椿姫の死にも今までは感情移入できなかった。ヴィオレッタがアルフレードの父に、娘のように抱擁してほしいとか、縁談成立を願って身をひいた自分のために御嬢
さんは祈ってくれるでしょうか、とか言う気持ちがピンとこなかったのだ。

しかし今回は現代風演出のシンプルさがヴィオレッタの孤独を浮かび上がらせ、死んでいく私を忘れないでね、という最後が哀れだった。
原作者デュマ・フィスとパリの娼婦マリー・デュプレシの実話、原作のアルマンとマルグリット、オペラのアルフレードヴィオレッタ、の3組の恋人たち、ボンボンと娼婦の結ばれなかった純愛物語はどれも一緒だが、最後の死の場面に男が間に合うのはオペラだけだ。このオペラが人気のあるのはよくわかる。

カーテンコール、ヴィオレッタは寝間着、アルフレードは白のシャツとズボン、その隣のヴィオレッタの友達はパーティでのハリウッドスターのような衣装。

帰りがけに前回行き残したところのひとつ、地下鉄オペラ座駅構内のミュージックトイレに入った。ウィーンナーワルツが外まで流れている。

オペラ座の桟敷席を模した扉の中がトイレの個室。

パリよりウィーンの方がオペラも上というのが結論だった。(とら)