ポリーニとベルリンフィル

帰国も迫った12月半ばに雪のベルリンへ行ったのはポリーニベルリンフィルの共演でモーツアルトのピアノ協奏曲21番を聞くためだった。これもネットで発売日に予約したのだが、なかなかつながらなく、やっと取れた予約の確認メールは「おめでとう、席が確保されました」というものだった。来年はザルツブルグ管弦楽団の首席指揮者となるティーレマン指揮、ポリーニのピアノということで超人気演目だった。

ベルリンフィルをナマで聞くのは初めてである。ウィーンフィルに続いて世界のメジャー楽団の演奏にも期待していた。ベルリンフィル正式にはベルリン・フィルハーモニー
管弦楽団の本拠地はベルリン・フィルハーモニー・ホール。1963年に竣工したワインのブドウ畑型といわれる五角形の施設で、収容人数は2440席、ウィーンの楽友会館ホールが1680席、東京のサントリーホールが2000席だからかなり大きい。しかし客席のレイアウトが良いのか広々としているが、だだっ広くはない。音響もきわめて良い。

ピアノ協奏曲21番はウィーンで聞いた17番より明るくよく知られた曲だ。映画「みじかくも美しくもえ」にも使われている。ポリーニの繊細なタッチはモーツアルトに本当によく合う。ティーレマンはどちらかというとダイナミックな指揮者だが、ポリーニに合わせて
押さえた指揮ぶり、ベルリンフィルポリーニティーレマンの共演は本当に素晴らし
かった。拍手も鳴り止まず、ポリーニは何回もステージに呼び返されていた。

幕間休憩に入る。オペラ座も広かったが、このホールも広々としている。ドリンクの場所も何か所かに設置されており、そんなに並ばなくても飲み物が買える。シャンペンは
パリより2ユーロ安かった。人々の服装はオペラと同じ、パリとウィーンの中間。

後半、ステージにはピアノがない。えっ! ポリーニはもう出ないの……!?後半の曲はリストだったので当然ポリーニが弾くのだと思い込んでいた。曲目のマゼッパといえば、超絶技巧練習曲しか思い浮かばなかったが、同じ題名で管弦楽曲交響詩第6番があるとは知らなかった。しかしこれはモーツアルトよりティーレマンに向いており、迫力のある演奏だった。マゼッパはヴィクトル・ユーゴー叙事詩の主人公、17世紀のポーランドの宮廷に仕えてたマゼッパは、貴族の夫人と不貞をはたらいた罪として裸で馬に括りつけられて荒野に追放されてしまう。しかし放浪をつづけているとウクライナで救われ、コサック兵の一員となり、ついにはウクライナの英雄になるというストーリー。ピアノ曲はただむずかしいだけだが、交響詩のほうが、テーマを表現しているように思えた。

ベルリンフィルの素晴らしい演奏の余韻を胸に、遅い夕食をとあたりをつけていた11時までやっているという店に行くとラスト・オーダーは10時20分ということで断られ、その辺の店に入る。もう客は誰もいないが一応のものは食べさせてくれた。ドイツ人は早寝のためか、ベルリンは演奏会の後の食事事情はよくない。しかしクリスマスの装飾がされた街は静かで美しかった。(とら)